境界性パーソナリティ障害について

境界性パーソナリティ障害とは、パーソナリティ障害のうちB群に位置する。
B群パーソナリティ障害には、「自己愛性パーソナリティ障害」「境界性パーソナリティ障害」「演技性パーソナリティ障害」「反社会性パーソナリティ障害」の4種類の分類がある。

これは簡潔にまとめると『他人に何らかの影響を与えなければ気が済まない強力な外向性性格』であり『自己顕示的な自己愛と承認欲求の過剰』である。

境界性パーソナリティ障害は、不安定で衝動的な対人関係・自己像・感情に特徴付けられる。

症状や傾向について

患者はしばしば、特定の他者に強い依存心をだくが、他者は患者の行動パターンを予測できないので、患者との距離を置かざるを得ない。しかし、患者は孤独には耐えられずに、他者との距離を縮めようとする。その衝突が患者の失望を生み、失望は患者に大きな怒りをもたらす。

そのような経過の繰り返しで、患者の対人関係は必然的に不安定になる。怒りに駆られた患者は、自己の怒りを麻痺させるためや他者の助けを引き出すために、さまざまな自傷行為に走る。

見捨てられることへの恐れから、感情的に周囲の人を巻き込み、それと同時に周囲の動きに容易に巻き込まれることがある。他者を過剰に理想化するかと思うと、逆に過小評価するといった極端な変化をみせる。

精神症状でも、妄想反応(思い通りにならない場合に、被害妄想に落ちいることがある)や解離反応(自分が自分である感覚が失われたり、記憶を一時的に失ったりする)など精神病症状に近縁の症状の出現が目撃される。

※かつて精神病と神経症の境界線に位置すると考えられたために「境界性」と名付けられた。

疫学について

人口のおよそ2%と言われ、女性が7割であるとされる。
また本性は、経過中にしばしば抑うつ状態に陥り、高率に大うつ病性障害(単極性うつ病)を併発する。
情緒や対人関係の不安定さほとんど変化することなく続くが、年齢を重ねていくと、独特の不安定さは和らぎ安定化する傾向がある。
約1割が自殺する。 

診断について

パーソナリティ障害の診断は非常に慎重に行うべきものである。

例えばSchneiderは精神病質を「その人格の異常さゆえに自らが悩むか、または、社会が苦しむ異常」であると定義した。しかし社会が苦しむとか周囲の人を困らせるという理由で、患者本人の意志と別のところで行われる精神病質の診断は、社会の立場で医療の名の下に患者を一方的に処遇することに利用されかねない

社会的な視点からパーソナリティ障害を定義づければ、パーソナリティ障害が「人格」の障害として、マイナスの価値を与えられ、社会的に乱用・悪用されかねない。

 

以下にDSM-5(米国精神医学会の診断基準)に記載された、境界性パーソナリティ障害の診断基準を記載した。下記のうち5つ(またはそれ以上)によって示される。

  1. 現実に、または想像の中で、見捨てられることを避けようとするなりふりかまわない努力。
  2. 理想化とこき下ろしとの両極端を揺れ動くことによって特徴付けられる、不安定で激しい対人関係の様式
  3. 同一性の混乱:著名で持続的に不安定な自己像または自己意識
  4. 自己を傷つける可能性のある衝動性で、少なくとも2つの領域にわたるもの(例:浪費、性行為、物質乱用、無謀な運転、過食)
  5. 自殺の行動、そぶり、脅し、または自傷行為の繰り返し
  6. 顕著な気分反応性による感情の不安定性(例:通常は2〜3時間持続し、2〜3日以上持続することはまれな、エピソード的に起こる強い不快気分、いらだたしさ、または不安)
  7. 慢性的な空虚感
  8. 不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困難(例:しばしばかんしゃくを起こす、いつも怒っている、取っ組み合いの喧嘩を繰り返す)
  9. 一過性のストレス関連性の妄想様観念または重篤な解離症状

これらの診断基準に当てはまれば、境界性パーソナリティ障害の診断が決まるわけではない。
そもそもDSMは、精神疾患の特性上、専門家の間で判断の平等性・共通の認識を作るためのものに過ぎない。
実際、診断基準に照らせば多くの人が合致し、当てはまってしまう。しかし専門家の中には、境界性パーソナリティ障害と診断された患者の一部のみに、本当の境界性パーソナリティ障害の人がいると考えている人もいる。

また、境界性パーソナリティ障害の人は、他人を境界性パーソナリティ障害と決めつけたがる傾向がある。

境界性パーソナリティ障害と対人関係

境界性パーソナリティ障害の人は、物事を白か黒かと二極化して捉えてしまう思考パターンを特徴とする。他人を良いか悪いかで二分して捉え、敵か味方を決めつけてしまう。また、それはちょっとしたきっかけで容易にひっくり返る。昨日まで友好的だった関係が、次の日には徹底的に攻撃的になるということが起こりうる。

境界性パーソナリティ障害の患者は自己が希薄であるために、他人との関係にしがみつく。自分の存在意義に自分が一番自信を持てないために、肯定してくれる存在を探し彷徨い続ける。そして生じた対人関係の信頼が絶対的なものであるか確かめるために、わざと相手にとって破壊的な行動をとってしまう。その信頼への悲痛なまでの欲求は、エスカレートして自傷行為や自殺のほのめかしなどを引き起こす。

患者は二極化した思考パターンでしか物事を捉えられないため、グレーゾーンの処理や対処が困難である。友人関係、特に恋愛関係においては破壊的で極端な行動をとる。

自己愛的で依存的な関係を相手に強要し、相手を振り回す。また、特定の誰かに関心を持った場合、それは次の相手に関心が移ることがない限り、死ぬまで執着し続ける。

ストーカー行為に至るケースもある。多くの場合、本人に自覚はない。患者の中で、被害妄想が広がり、組み替えられたストーリーの中で自分が一番の悲劇の主人公となっている。

患者は感情的に他人を巻き込む能力に長けており、見捨てられ不安から同情を得るために、事実を捻じ曲げて他人に悲痛さを訴えかけることがある。

患者への対応の原則は一貫した対応である。共感はするが同情はしないというスタンスが基本である。つまり、「あなたの言っていることはわかるが、私はあなたのことをかわいそうとは思わない」という対応である。同情をすると、「この人は私を救う義務がある」などと要求がエスカレートし、悪化し振り回されることになる。

治療のためには患者の関係者・関係組織が、一丸となって一貫した対応を取る必要がある。

 

治療について

パーソナリティ障害である以上、患者はこの疾患とは一生付き合っていかなければならない。

治療法は「精神分析療法」「支持的精神療法」「認知療法」「集団精神療法」「家族療法」などがある。これらは一つ一つ行うものではなく、組み合わせて継続的に行われるものである。

認知療法」では二極化しがちな思考パターンの改善・誘導による自己発見のアプローチ・患者の自己評価を向上させること・自分が変化することへの患者の恐れを受容などを行う。

「集団精神療法」では、同質な集団の中で、感情のコントロールや認知の歪みの修正、自己破壊行動を回避する技能の向上を目指す。

「家族療法」では、患者の背景に、不安定な養育環境などが存在すれば、家族の不安定性の解決を目指して行われる。

薬物療法は随伴する不安感や抑うつ感に対して抗不安薬抗うつ薬などが処方され、薬物療法による根治的な治療は望めない。

 

境界性パーソナリティ障害の患者の治療は困難を極める。
パーソナリティ障害の患者は病識がないケースが多く、また長期間渡り治療者を試すような攻撃的行動を行うことがある。

患者は対人関係において相手との距離感を取れない人もおり、患者の挑発行動に乗ってしまうことは治療の阻害となる。 

治療の失敗は患者の自殺であり、たとえ自己破壊的行動があろうと生きていて治療を継続していることは常に賞賛に値するものである。

患者の義務は死なないこと・生き続けること・自分を大切にする努力をすることである。

患者の主体性が重要であり、支配被支配の関係に陥ってはならない。治療者が治療における考えを一方的に押し付けることは治療の阻害となる。

治療に当たって、「〜をしない」などといった約束、認識の限界設定を行うことが重要。

自傷行為の叱責は無意味であり、自傷行為の肯定的側面と否定的側面について話し合い代替的な対処行動の可能性を検討するべきである。ただし切迫した自殺の危険があるときは安全のために屹然として対処しなければならない。