時代と閉塞感と思想と

自分はよく本屋へ行く。
特に買う予定がなくても、ふらっと立ち寄ってしまう。
本屋特有の紙の本の匂いが好きだし、山のように積まれている本を見るのも楽しい。

 

欲を言えば、並んでいる本を見て社会が見えるようになりたい。
今ヒットしている本、あるいは貼り出された広告に踊る文字…そういった情報から、この時代の流れを読み取れたら面白いと思う。
きっとヒットするからには、何かしらの理由があると思うのだ。

 

東日本大震災の後、『進撃の巨人』が大ヒットした。
特に20代を中心とする若年層で大人気となり、アニメ化・映画化もされた。
自分も試験前日に現実逃避で観たりしていた。

漫画を読んだ人・アニメを観た人はご存知のように、『進撃の巨人』のストーリーは、絶望・閉塞感・ままならなさ・残酷さ・リアル…そういった要素が満ち満ちている。
もっと年齢が低い人が読めばトラウマになるレベルだ。

そう言えば自分は高校生の頃に太宰治の『人間失格』を読んでトラウマになりかけた。

 

でも一体どうしてそんな作品が大ヒットしたのか。
これについては色々な評論家がすでに説を述べているので、自分は大して書こうとは思わないけれど、一言でいうのなら"時代を反映していた"のだろう。
実際、同時期にヒットしたまどか☆マギカもなかなかに絶望的な戦いを描いている。
他にも探せばたくさんあるはずだ。

もちろん昔から、そういうデカダンス系というかニヒリズム系の作品が好きな層は一定数いただろうけれど、それが社会現象になっていることに意味がある。

 

本当に自分たちの時代を反映しているだろうか?

絶望という直接的な言葉で表現するまではいかなくとも、ある種の閉塞感・頽廃的な空気感は自分たちの世代を包み込んでいると感じる。

これは多くの同世代の人たちが共感してくれるところだろう。

 

その時代が閉塞感・絶望・頽廃的な空気で満たされるのは、信じていたものが打ち砕かれる時だろう。
日本で言えば、高度経済成長期時代の共同幻想はほぼ打ち砕かれた。
理想の就職の形、家族観、恋愛観…インターネットの発達に伴って相対的な価値観が広がり、共同幻想の崩壊は加速された。

そんな今は、目指すべき方向を見失った不安に満ちた時代なのではないか。

 

世界史を紐解くと近い時代はいくつかある。

一つは古代ギリシアのヘレニズム期。精神的なよりどころとしてのポリスは、衆愚政治・権力争いの末にその存在意義を失った。人々の間には混乱と不安が広がり、心の平静を内に求めていった。

そこに現れたのがエピクロス派(快楽主義)、ストア派(禁欲主義)といった思想だった。
ストア派は、心の平安が最高の快楽と考える学派で、
エピクロス派は、禁欲することによって心の平安を目指す学派であった。

 

もう一つは、戦後ヨーロッパ。
二度の世界大戦を通して、理性や科学は凄惨な過ちを犯しうることを自ら証明した。
ヨーロッパの文化を第一とする価値観への反省が生まれ、その誇りは打ち砕かれた。
そこで注目されたのが、実存主義思想であった。

絶望の最後の救済として主体的真理として神への信仰を説いたキルケゴール
ままならない世の中なら、いっそ未来に向けて自分の生を投げ出して、自らの生を選び取っていかないかと説いたJ.P.サルトル

一切の真理を否定し、ニヒリズムを克服する方法として、"力への意志"を説いたニーチェ

 

この不安定な時代を乗り越えるヒントは、彼らの思想にあるかもしれない。

 

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