ミューレンのストーカー分類

ストーキングとは悪質なつきまといのことであり、つきまとわれている被害者が精神的な苦痛を味わうことをさす。

歴史的にみてもストーキングが違法と認識されるようになったのは近年になってからであり、ストーカーによる殺人事件が社会問題となった1990〜2000年にかけて各国で規制法の制定が相次いだ。

日本では桶川の女子大生殺害事件がきっかけで2000年12月にストーカー規制法が施行された。

桶川ストーカー殺人事件 - Wikipedia

 

ストーカー規制法は、悪質なつきまとい行為を直接的に規制する。

具体的には、

①自宅・学校・職場での、つきまとい・待ち伏せ・押しかけ

②監視していると告げる行為

③面会・交際の要求

乱暴な言動

⑤無言電話、連続した電話・電子メール

⑥汚物・動物の死体等の送付等

⑦名誉を害する事項の告知等

⑧性的羞恥心を侵害する物品の送付

などである。

①〜④については「身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合」に限られる。

後述のようにストーカーには類型があり、ストーカー規制法で規定しているのは「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する」ケースであり、それ以外の恋愛感情が介在しない悪質なつきまといは他の条例によって取り締まられる。

 

⑤の電子メールについては2013年までは規定がなかった。しかし、2012年に逗子ストーカー殺人事件がおきたことにより、規制法に盛り込まれることとなった。

逗子ストーカー殺人事件 - Wikipedia

事件の内容は読めばわかるが、身の毛のよだつものである。加害者はストーカー行為によって一度投獄され、出所した後に、"当時の段階で規制がなかった"電子メールで、"規制されない内容"のメールを繰り返し送り続け、Yahoo知恵袋で複数のアカウントを用いて、善意の質問者を装い、400に及ぶ質問を通して、被害者の住所近辺の情報や殺害方法の情報収集を行なっていた。

ストーカーの加害者は決して知的水準の低い人に限るものではなく、得てしてリテラシーが高い層も加害者になりうる。一流企業に勤めている人や医者や弁護士ですらなりうる。この逗子ストーカー殺人事件の加害者も、出所後の犯行はギリギリ捕まらないラインを見極めて行動に移しており、また投獄前の職業は高校教師であり知的水準は高いと考えられる。

 

知的水準よりはむしろ、性格的な傾向が関係するだろう。ボーダーライン気質でプライドが高く、感情の起伏が激しい。後述の拒絶型ではそんな人物像が典型的ではないか。

 

ストーカーの分類は、福島章の分類やミューレンらによる分類がある。

ミューレンによれば以下の4つに分類される。

(1)拒絶型

拒絶型は、元交際相手、元配偶者などをストーキングするタイプである。相手から別れを切り出されたことをきっかけに開始されることが多い。拒絶型のストーカーはプライドが高く、別れを切り出されたことでプライドが傷つき、これに対する報復の感情が動機の一つとなる。一方で彼らは相手に対して関係を修復し元通りの関係に戻りたいという欲求も持っており、復縁のためにプレゼントしたり謝罪したりする。彼らの行動はしつこく、攻撃もエスカレートすることが多く、特にもはや復縁が不可能になった場合には、彼らの行動は攻撃中心となる。拒絶型はストーカーの中で最も危険なタイプであり、傷害やレイプ、場合によっては殺人にまで発展する場合がある。

交際経験がある場合も多くそのケースでは、加害者は被害者の弱みを熟知しており、それ故に攻撃は効果的で被害者のダメージは大きいものとなりやすい。

 

前述の逗子ストーカー事件の加害者は、拒絶型と言えるだろう。加害者はプライドが高く、自分こそが傷つけられた被害者だと思っており、"お前も同じように苦しみを味わえ"、"幸せになんて絶対にならせない"などといった思考回路だろう。

 

(2)憎悪型

加害者は鬱憤やストレスを溜めやすいタイプで、ちょっとしたきっかけで不満を爆発させ、被害者に対して嫌がらせを開始する。加害者はじわじわと被害者を攻撃し、苦しむのを見たり想像することで満足する。被害者はなぜ嫌がらせを受けているのかわからないことも多い。

 

(3)親密希求型

この型では、加害者は被害者と愛し合っているとか恋愛関係にあるといった妄想をだきつきまといを行う。妄想は合理的な説得によって消すことは困難であり、「恋愛関係にない」とか「会うことはできない」といった説得は妄想に合わせて、"なぜ愛し合っているのに、会えないのだろう。誰かに反対されてるのだろうか"などと曲解される。

 

(4)無資格型

無資格型は、人間関係において相手の立場に立って物事を見ることが苦手な加害者によってなされるストーキング。この中には様々な形があるが、一番危険なのはサイコパス的な無資格型で、このタイプは被害者に対して一方的な求愛行動を繰り返し、それに対する見返りがないとその行動が攻撃に転化する。結果的に暴力やレイプなどの行動に出る場合がある。

 

(5)捕食型

レイプや性的殺人などを行う前段階としての情報収集のために、選定した被害者につきまとうストーカーのタイプ。被害者はつきまとわれていることにも気づいていない場合が多い。

 

全てのストーカーが綺麗に5つの類型に当てはまるわけではなく、オーバーラップするものも多いだろうし、型が変化していくケースもあるだろう。

 

書いていて一番に思ったのは、ストーカーはまだ非常にグレーゾーンが多いということ。もともと1990年代に至るまで、つきまといは違法とも認識されていなく、警察も民事不干渉の立場から積極的な対応はしていなかった。それが変わり始めたのはつい最近のことに過ぎない。そういう意味でまだ過渡期なのだ。

 

不法侵入やレイプ、脅迫など、明確な違法行為があれば取り締まることができるが、それが行われていない場合、むやみに被疑者を取り締まることはできない。そうやってグレーゾーンで取り締まれなかった膨大なケースの中に、殺人事件が発生し、その都度法律の穴また埋められていく。

 

もう一つ、住所の特定が今の時代は簡単にできてしまう。FacebookTwitterで自宅の近辺の写真や情報を投稿していれば、そこから辿ることができてしまう。FacebookTwitterが存在しない2011年の段階で、逗子ストーカー事件の加害者は、インターネットと聞き込みから被害者の住所を特定している。

 

加害者に強烈な執着心と知的運用能力があれば、住所を特定されることは避けられないのではないか。

 

ストーカーの被害者は守られないといけない。彼ら彼女らに非はないし、理不尽な誹謗中傷や名誉毀損が放置されて良い理由はない。

一方で、加害者は罪を償わなければならないと思いつつ、不憫に思う。いびつな感情でしか人間関係を築けないために、彼ら彼女らは一生幸せになれないだろう。誰かに恨みを抱えて生きていくことを宿命付けられているとしたら、救いようのなく可哀想な人たちだと思う。

 

 

ケースで学ぶ犯罪心理学

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