小説描写の練習記録1

初夏の頃だった。
窓から見える木々は青々として、差し込む光が病室を柔らかく照らしていた。
木下さんはこの老人ホームに移ってきて3ヶ月になるおじいさんだ。
認知症を患って6年にもなる。
木下さんは毎日ベッドに腰掛けて窓を眺めている。

★★★

将来物書きになりたいと真剣に願うのなら、たくさん読んでたくさん書くことだと、そして何度も人に見せて意見をもらうことだと。
自分みたいな完璧主義で見栄っ張りな人間は、文章を一つ書くのにも、厳密性を求めてしまって苦労する。
加えて、空想・妄想・想像から身を引いた生活をずっと続けていると、その部分の脳のパーツが凝り固まってしまうのか、全く筆が進まない。
何書いていいのかもわからない。結果、何時間も時間を書けてしまう。

冒頭の文章は、小学生でも書ける100字ちょいの文章だけれど、たかがこれだけの文章に1時間かかっている。
スティーブン・キングの「書くことについて」や江國香織の「つめたいよるに」を読んで、勉強したり参照したりしている時間を含めたら、4時間に近い。

ただ、0から書いた。
なんてことないシンプルな病室のワンシーンだけれど、自分の想像の産物。
全てはここから始まるのだと思いたい。

世の中にはしょうもない文章が溢れている。
何を言っているのか理解できない文章、文法や語彙の用法が間違っている文章、芸術性の全く感じられない文章…
でもそれらを馬鹿にするのは簡単だ。
それっぽく批評し批判するのは、アマチュアでもできる。

でも、いざ自分で0から作ろうとすると、大変な作業だ。特に自分みたいな頭の固い人間にとっては。

たったワンシーンを書くために、いくつも悪戦苦闘した。

  • テーマを決めてもストーリーが思いつかない
  • ストーリーを過去作品を参考にして書き始めても、描写力が追いつかない
  • テーマもストーリーも無視して書き始めても、オチへと導く力がないし思いつかない
  • とりあえず1,000字書くにも書くものが思いつかない
  • 結局心に浮かんだワンシーンを描写することに集中する…という発想で、なんとか100字書く
  • イメージはできていても、いざ描写しようとして表現力が足りず歯がゆい思いをしたり、状況設定の曖昧さが露呈する

宮原昭夫の「書く人はここで躓く!」では、小説の最小単位は、シーンなのだという。シーンの書き方と、その組み合わせで小説は作られるとのこと。

そう言った意味で、まずはワンシーンをしっかり書けることが重要なのだろうと思った。